概要

従来のインテグレーションプラットフォームとしてのサービス（iPaaS）は、複数の環境にわたるアプリケーションとデータの統合の基本的な機能を提供しますが、複雑な統合、高度なデータ管理、リアルタイム処理、AI、機械学習（ML）のサポートには不十分です。それに対し、新興の「Super iPaaS」というカテゴリーはさらに進化し、最も複雑な統合をサポートするための高度な機能を取り入れ、洗練されたAPI管理、自動化のためのAIとMLを提供します。これは単なるインテグレーションプラットフォームではなく、技術的な側面や現代のビジネスの変化する要件に対応するだけでなく、包括的なソリューションとして機能するものです。

この論文は、この新しいカテゴリーを評価し、それが解決する特定の問題やビジネスにもたらす利点について詳細に述べます。また、Super iPaaSを導入する際の課題を検討し、組織がSuper iPaaSへ移行するかどうかを判断するための評価基準を提案しています。

比較：iPaaS vs Super iPaaS

iPaaSは多様で複雑なデータソースやシステムの接続を可能にし、社内での開発やメンテナンスの必要性を大幅に減らします。iPaaSの有用性は、API管理とデータマッピングを通じてさまざまなクラウドおよびオンプレミスのアプリケーションを統合するこ とにも及びます（すべてのiPaaSベンダーがAPIの作成と管理の両方の機能を提供しているわけではありません）。

すべてのスキルレベルのユーザーがローコードまたはノーコードのプラットフォーム にアクセスし、システムのメリットを享受できるだけでなく、高度な技術ツールのオ プションも利用できます。iPaaSプラットフォームは通常、監視、分析、ガバナンスの機能を提供して、統合フローをセキュアに最適化し、変動するワークロードに対してスケーラブルで信頼性の高い柔軟な対応が可能となります。

iPaaSは企業のITにおける重要なニーズに応えていることは明白です。2022年の世界のiPaaS市場規模は668億ドルに達し、2023年から2030年までのCAGR（年平均成長 Page 2 Super iPaaS: A Growing IT Integration Trend November 2023 Copyright ©2023 Moor Insights & Strategy 率）が32.47％で、2030年には6,167億ドルに達すると予測されています。最大の市場は北米であり、最も急速に成長しているのはアジア太平洋地域です。¹

従来のiPaaSがこのように急速に成長しているなら、なぜ企業がSuper iPaaSに注目しているのでしょうか︖それは、彼らが現代のIT運用の要件が従来のiPaaSの能力を超えていることを理解しているからです。将来、ビジネスはデータ駆動型、マルチクラウド、ハイブリッド環境の複雑さを乗り越えるために、ますますSuper iPaaSに傾斜する可能性があります。従来のiPaaSの32％の年平均成長率はその関連性と成長を示してい ますが、Super iPaaSへの進化は市場がより高度なニーズと課題をすでに把握していることを強調しています。

いくつかの例が、いかにiPaaSが業務を改善するか、Super iPaaSがビジネスをどれだけ変革するかを明らかにしています。例えば、従来のiPaaSでは、CRMとERPなどのさまざまなシステム間のデータ共有を可能にし、手動でマッピングしたデータフィールドやベーシックな自動化スクリプトを使用してデータを定期的に更新します。Super iPaaSは、さらにこれを超えて、AIにより自動的にデータマッピングが行 われリアルタイムにインテグレーションや、データ同期が行えます。このことで、即座に正確なデータ交換が保証されます。

もう一つの例として、製造業では、従来のiPaaSはERPをサプライチェーンの管理や生 産システムを連携して調達、生産、流通の業務に必要な　一連の情報を提供します。しかし、この連携にはデータのマッピングやスケジュールの更新のために手動での介入が必要です。一方、Super iPaaSは、リアルタイムに統合できる進化した自動化をインテグレーションのための高度な自動化を導入し、手動での介入なしで効率を大幅 に向上させます。

最後に、医療分野では、従来のiPaaSが電子カルテシステムを患者ポータルや各種医療保険と統合して患者情報を集約しますが、このようなインテグレーションには標準的なセキュリティプロトコルが必要であり、手動での設定が必要です。Super iPaaSは、自動化とAIによるセキュリティで、最小限の手動介入で機密データをリアルタイムに保護します。

Super iPaaSの特徴と利点

データが重要な資産である時代において、Super iPaaSはビジネスが多様な環境でデー タを統合、管理、活用し、競争上の優位性を確保できるようにします。
主なSuper iPaaSの機能を考えてみましょう。

高度な統合機能
Super iPaaSプラットフォームはB2Bアプリケーション、データ、イベントを任意のデバイス、アプリケーション、システムにそれぞれ繋ぐ機能を持っています。これにより組織が戦略的にデータを活用できる能力が向上し、データとアプリケーションを統一されたプラットフォームに集約することでビジネスの意思決定が向上します。

生成AIとML
Super iPaaSは、機械学習と生成AIの両方を使用してデータマッピングプロセスを自動化および最適化します。これらの高度な技術はパフォーマンスを向上させ、改善の 余地のある領域を特定することで精度と効率を向上させます。

マルチクラウドとハイブリッドのサポート
Super iPaaSは、多くの構築済みのコネクタを使用して、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウド、およびハイブリッドインフラストラクチャを横断してアプリケーションを統合することで、マルチクラウドおよびハイブリッド環境をサポートします。ハイブリッドとマルチクラウド環境をサポートする特徴的な機能の1つは、開発者にとって負担となる作業、すべての必要な依存関係を自動的に組み込んで、任意の場所にインテグレーションサービスを展開する能力です。これにより、さまざまなアプリケーションやデータソースの統合が簡素化され、加速され、複雑さと時間の要件が低減されます。

ユーザーエクスペリエンス
Super iPaaSには、シンプルで直感的なUI/UXが特徴で、ユーザーが統合タスクを作成、管理、監視するのが簡単です。専門的なスキルを必要とせず、さまざまなユーザーの要件に対応するカスタマイズオプションを提供します。

セキュリティとコンプライアンス
セキュリティはSuper iPaaSで中心的な位置を占め、エンドツーエンドの暗号化など、 データ保護、プライバシー、コンプライアンスを強化するためのプロトコルを提供します。また、よりスマートなアクセス制御を提供して、ユーザーアクセス権限を的確に管理し、データの整合性とプライバシーをさらに保護します。

インテリジェンスと分析
Super iPaaSの高度なインテリジェンスは、機械学習によって知見に基づいた予測分析を作成し、データ駆動型の意思決定を可能にします。

Super iPaaSの実際の適用例
Super iPaaSは、複雑な統合のニーズ、大量のデータ、困難や急速に変化する技術環境を持つ業界で使用が検討されます。以下に、Super iPaaSがさまざまな業界や部門 でどのように使用されるかの例を紹介します。

• 小売業者は、POSシステム、eコマースプラットフォーム、在庫管理アプリケーション、サプライチェーンからのデータを統合してリアルタイムの在庫レ ベルを表示するためにSuper iPaaSを使用します。
• 通信業者は、顧客がサービスをどのように使っているかを分析し、利用パター ンを測定するためにSuper iPaaSを利用します。
• 金融機関は、リスク管理、不正検出、コンプライアンス、銀行業務など業務毎に分かれてしまったシステムを統合し、顧客のいろいろな金融取引きを1つの インターフェースで提供できたり、データ保護を向上させたりするために Super iPaaSを活用できます。
• テクノロジーチームは、異なるクラウドプラットフォームやオンプレミスシステムでのアプリケーションとデータの統合を行いながら、複数のコンピューティング環境を管理するためにSuper iPaaSを使用しています。
• マーケティング部門は、CRM、ソーシャルメディア、コンテンツシステム、お よび分析ツールからのデータを統合し、パーソナライズされたコンテンツや広告を提供するためにSuper iPaaSを採用できます。
• データ管理は、Super iPaaSの効果をすぐに実感できます。たとえば、データガバナンス、データ処理、品質保証の多くの手順が自動化され、効率的な運用とデジタル変革の取り組みを支援します。

Super iPaaSの導入に伴う課題

今までご紹介した例は、Super iPaaSの高度な機能によって実現できる生産性向上を示 しています。ただし、このプラットフォームを採用する組織はいくつかの困難に直面 するかもしれません。異なるシステムの移行と統合の複雑性は、多くの組織にとって 難しい課題となることがあります。従来のインテグレーションプラットフォームから Super iPaaSへの移行は、多くの時間、専門知識、労力の投資コストが必要な場合があ ります。費用も課題となるかもしれません。Super iPaaSの導入には、プラットフォー ム自体だけでなく、トレーニングや運用の変更に伴うコストも発生することがあるかもしれません。 Super iPaaSを管理するための熟練したプロフェッショナルの必要性は、リソースの需要を増やします。

データの統合により、複数のアプリケーションとデータソースを統合する場合は、 データ漏洩のリスクが生じる可能性があるため、セキュリティとコンプライアンスも懸念事項です。また、組織内での新しいテクノロジーの採用に対する内部の抵抗も、 スタッフの新技術の採用を妨げることがあります。これらの課題に対処するには、教育、トレーニング、およびユーザーサポートを含む変更の管理のために戦略的アプ ローチが必要です。

SUPER iPaaSベンダーの比較

いくつかの企業はすでに従来のiPaaSを提供しており、Software AG、IBM､ Oracle､ Salesforce(MuleSoft)、Boomi、SAP、Microsoft、Workato、Informatica、TIBCO 、Qlik(Talend) 、SnapLogic、Jitterbitなど、Super iPaaSプラットフォームに移行することが期待されています。これらのベンダーのソリューションは、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドの環境を横断してさまざまなアプリケーション、サービス、データソースを接続します。

Super iPaaSプロバイダーは、クラウドまたはオンプレミスでのアプリケーション、 データ、B2Bトランザクション、API、およびイベントの統合を促進する包括的なツールセットを提供します。このツールセットは、データ規制の遵守を確保し、AIとMLを介した統合された自動化を含むべきです。Super iPaaSは比較的新しいカテゴ リーであるため、多くのiPaaSベンダーはまだ完全なSuper iPaaSとしてのソリュー ションを実装していません。各既存のソリューションにはそれぞれ独自の強みがあり ます。

たとえば︓

• MuleSoftのAnypoint PlatformはAPIの接続性で知られており、Boomiはアプリケーションの柔軟な接続性で、SnapLogicはクラウドとオンプレミスのアプリケーションの統合で知られています。
• Microsoft、Oracle、SAPは、広範なリソース、エコシステム、およびテクノロジースタックで知られています。
• Software AGは、Super iPaaSカテゴリーで早くから台頭してきたベンダーとして登場し、統合プラットフォームwebMethods.ioを介してデータ、B2Bトランザクション、イベント、アプリケーションのすべての統合を支援する包括的なツールセットを提供しています。また、AI/MLを利用した自動化、API管理、 ローコードアプリケーション開発も提供しています。
• IBM App Connectは、現代のSaaSアプリケーションと複雑な環境のための ハイブリッド統合を可能にしています。
• JitterbitのHarmony iPaaSプラットフォームは、迅速で効率的なアプリケーション、データ、EDI、およびAPIの統合に焦点を当てています。
• Informaticaは、データ統合と強力なAIとML機能で知られるますが、一部Super iPaaSに移行しています。

これらの企業はいずれも、企業顧客のサポートに多くの経験を持ち、それに見合う技術力を備えてますが、今のところSoftware AGがSuper iPaaSカテゴリーのパイオニアであるようです。

貴社におけるSuper iPaaSの評価

Super iPaaSは、ソリューションとマーケットとして、どこに向かっているのでしょうか︖AIと機械学習の絶え間ない進化によって、Super iPaaSは特に急速に成長していま す。今日の自動化されたデータマッピングとリアルタイムの脅威検知は、最先端技術としてさらにSuper iPaaSを高度化させることで、今後もますます洗練された機能に進化するでしょう。

より高速なエッジコンピューティングから進歩した無線通信まで、テクノロジー環境全体のほとんどの新しい開発でSuper iPaaSの固有の柔軟性と適応性を最大限に活用す ることができます。先に述べたように、これは特に複雑なIT環境を管理する必要がある産業や機能、あるいはビジネスパフォーマンスを向上させるために新しいテクノロ ジーを導入したいと考えている分野で、特に価値があります。

Super iPaaSのベンダー選択時には、プラットフォームの機能的な能力を考慮し、AIとMLによって強化された高度な統合と自動化を提供することを確認する必要がありま す。解決策は、組織のデータを保護し、規制基準を遵守するための堅牢なセキュリ ティとコンプライアンスを提供しなければなりません。正しいSuper iPaaSの解決策はまた、急速なスケーラビリティとカスタマイズを可能にし、新興のビジネスおよび技術的なニーズに対応し、将来のイノベーションの取り組みをサポートします。

ベンダー選択と同様に、プロバイダの評判、サポートサービスの品質、実装のタイム ラインとコストを考慮することが重要です。これらの要因は、見込まれるROIとバラン スを取るべきです。これらは、組織にとって解決策の実現可能性とそれが時間の経過 とともにもたらす価値を評価するための重要な要素です。

Super iPaaSからのROIは、業務効率、コスト削減、より良い意思決定、増加する収益、顧客体験向上、および総合的な競争優位性を通じて実現されます。企業は、 Super iPaaSの導入に関連する各分野の特定のKPIを測定することで、このROIを数量化することができます。

Super iPaaSはアプリケーションとデータの統合を革新し、ビジネス機能を強化してデータ駆動の戦略と進化する市場状況や顧客の要求に迅速に対応しています。これは 既存のiPaaSのアップグレード以上のものであり、より俊敏で洞察力に富んだ競争力のあるビジネス運営への基本的な転換です。

本稿に関する重要な情報

寄稿者
Robert Kramer エンタープライズ・データ・テクノロジーズ副社長兼主席アナリスト

出版者
Patrick Moorhead Moor Insights & Strategy社CEO、創業者兼チーフアナリスト

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¹ Kings Research, “Integrated Platform as a Service (iPaaS) Market,” Yahoo Finance, November 10, 2023